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子どもと家族が抱える課題

ISSUES OF FAMILY MEMBERS

私たちが向き合おうとする、地域課題は何なのかをお伝えします。
その子の「生きる」を支える、とは何でしょうか-
私たちは、そのことを、みなさんとご一緒に考えていきたいと願っています。

LTCの子どもの環境や状態、気持ち


子どものがんを新たに発症するのは、毎年全国で約2000人程度と稀なものですが、それでも子どもの死因としては、事故などを除けば最も多いものです。発症した子どもたちのうち、約3割の子どもたちが命を落とします。子どものがんは、白血病、脳腫瘍のほか、肉腫などで、成人のがんと異なり、治療法は手術や放射線治療の他に、抗がん剤治療が中心となります。抗がん剤治療(化学療法)が、過去30年間の間に、どんどん強化されたことで、約50%程度であった生存率が70%程度にまで向上しましたが、その代わり、副作用は大変強いものになっています。治療中は、ひどい吐き気や食欲不振、下痢、口内炎、全身倦怠、脱毛、高熱などに悩まされ、長期間の入院を余儀なくされます。入院期間は半年から1年間に及びます。まれには副作用のために命を落とすこともありますが、そこまでの強力な治療を行って初めてがんを克服できる可能性が出てくるのです。小児がんの子どもたちは、このような過酷な治療を乗り越えて治癒の可能性を手にするのですが、逆にそれでも死を避け得ない子どもたちもいます。

闘病中の子どもたちは、このような治療に伴う苦痛に耐えるのと同時に、地域や学校の友だち、きょうだいなどから切り離されて孤独となりますし、また、発達にとって重要な時期を社会から切り離された環境で生活するために、勉学のみならず、自己の確立など精神面での発達も遅れてしまいます。このようなことを防ぐために、病院では、院内学級への登校、同病の他の子どもたちとの関係性の構築、ホスピタルプレイスペシャリストや心理士、保育士の関わりなどの様々な仕組みを用意していますが、医療機関だけでできることは限られます。また、最近の世相を反映して、これまで虐待を受けてきた子ども、片親で生活に困窮している家庭の子ども、親が面会に来ない子どもなども多く、困難にさらに拍車がかかることも、この10年、急速に増えてきました。

がんは一般的には、いったん再発すると治癒を望むことは大変困難となりますが、小児がんも同様です。再度治癒を目指せることもありますが、その場合は、さらに過酷な治療に耐えなくてはなりません。また、その可能性がない場合も多くあります。当院では、発病した時に、病気の説明としてしっかりと治療をしなければ死んでしまう病気であることを伝えていますから,再発してだんだん治療も効かなくなってきた時には、年長の子どもたちは自らの死を悟るようになります。しかし、ほとんどの子どもたちは、何も言うことなく、死に向かいながらこれまでの生活を続けます。このような子どもたちの最大の願いは、これまでと同じような生活をしたい、家にいたい、きょうだいや友だちに会いたい、学校に行きたいです。年少の場合は、もっと遊びたい、お母さんと一緒にいたい、です。人生をどのようなかたちで終えるのか、これはすべての人にとって最も重要なことです。子どもにとっても例外ではなく、特に子どもの場合は、この理不尽な出来事に家族も含めて対峙していかなくてはなりません。私たちは、最後まで精神面での発達を担保し、子どもたちの希望をかなえながら、安楽のうちに母親の腕のなかで息を引き取らせてあげることが大切と考えています。

このように、不本意な出来事ではありますが、少しでも満足のいく最期を迎えさせることで、遺族の死後のつらさも軽くすることができるのです。私たちの病院では、小児緩和ケアとして、出来る限りの苦痛や不快な症状の除去に努め、教育や遊びの提供、家族でゆっくりと過ごせる小児緩和ケア病室の活用などを行っていますが、特に心理社会的な面では、病院のできることには限界があります。病院とTSURUMIこどものホスピスのような民間の団体の両者が連携して取り組むことで、初めて子どもにとっての理想的なケアが完結するのです。

副理事長 原 純一

大阪市立総合医療センター 副院長 / 小児医療センター部長・小児血液腫瘍科部長


小児緩和ケアと子どものホスピスの役割


「小児緩和ケア」とは、生命を脅かす病気と共に暮らす子どもとその家族を対象とし、生活の質(QOL)の向上を目指して、全人的かつ積極的なケアやサポートを行う取り組みと理解されています。かつては「治療をあきらめ、死を受容することと引き換えに提供される最終的なケア」といったニュアンスで理解されることも少なくありませんでしたが、現在では診断された時から必要に応じて提供することが広く推奨されています。

緩和ケアの実践において特に重視されているのは、病気に伴う様々な「苦痛」を身体的な苦痛としてのみ捉えるのではなく、精神的、社会的、スピリチュアルな要素も含んだ「トータル・ペイン(全人的苦痛)」として捉えることです。例えば「痛み」があるということは、身体的な苦痛のみならず、精神的な苦痛(「病気が悪くなっているのではないか」などの不安、「やる気が起きない」といった意欲の低下や気分の落ち込みなど)、社会的な苦痛(学校に行けない、友達と遊べない、など)、さらにはスピリチュアルな苦痛(「こんなつらい思いをしながらなんのために生きているのだろう」などの生きる意味への苦悩)などのトータル・ペインに繋がります。また、親やきょうだいなどの家族にとっても子どもの病気の進行、障害、そして死を間近で支えながら抱える困難は甚大なものとなります。

このような生命を脅かす病気をもつ子どもや家族が、様々な苦痛や困難を抱えながらも、社会の中でいきいきと暮らしていくためには、社会全体の取り組み、とりわけ地域における様々な活動が大切になります。地域の医療機関や教育・福祉などの公的サービスを含めた制度設計が急務ですが、それだけではかならずしも十分とはいえません。小児緩和ケアが普及している欧米の国々では、病気の子どもたちのQOL向上を支援する様々な慈善団体による支援活動が広く展開されているのが特徴です。なかでもその典型が「子どものホスピス」です。

「子どものホスピス」というと、小児がん終末期の看取りの場所をイメージされがちですが、実際の活動はそれだけにとどまるものではありません。いつもは自宅で暮らしている難病の子どもたちが時折訪れて、遊んだり、くつろいだりする場所であり、同時に家族もリフレッシュできる場所として重要な役割を果たしています。なにより世界中の子どものホスピスに共通する美しさの本質は、運営資金の調達、様々なボランティアとしての係わりなどを通じて地元の住民や企業などが力を合わせて子どものホスピスを支援するという、社会全体に息づく精神の美しさにあるといえます。

一方、わが国では、欧米と異なり、寄付に基づく大規模な活動を維持・発展することは極めて難しいのが実情です。まして小児緩和ケアという社会的にマイノリティな活動が広く一般の人たちに認知されることは容易ではありません。しかし、各国で地域主導の多様な小児緩和ケアの活動が社会全体に共感を得ながら浸透し、広く支えられ続けているのを見ていると、決してわが国でも実現ができないわけはないと感じます。その端緒として、TRURUMIこどもホスピスの活動には大きな期待が寄せられています。

わが国の制度や文化、そして地域の実情に見合ったケアモデルの確立、多職種的な人材の育成、経済基盤を確保、そのための地域の支援など、これからの小児緩和ケアの発展に向けて、克服していくべき課題は決して少なくありませんが、一つ一つの小さな活動が有機的につながり、より多様で幅広いネットワークと重層的なシステムを構築していくべき時が来ていることは間違いないでしょう。

最後に、小児緩和ケアは社会全体で取り組むべき重要な課題であることを繰り返し強調しておきたいと思います。

常務理事 / 多田羅 竜平

大阪市総合医療センター 緩和医療科部長・緩和ケアセンター長